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2025.02.06
インタビュー
職人インタビュー – コバヤシアキヒト –
ARTOColors. – コバヤシアキヒト –
『職人とお客様を結ぶ色』をテーマに運営しているARTOCUには、既存の色名では表現しきれない、個性豊かな色があります。そして、その色を染め上げる職人たちもまた、十人十色。
そんな彼らの”色”を引き出すインタビュー企画
『ARTOColors.』
今回お話を聞く職人はコバヤシアキヒトさんです。音楽やファッションに関する幅広い知識を持ち、モノ作りへの美学が光るコバヤシさん。職人仕事の中で見つけた「△」の大切さについてなど、ARTOCU運営チームが深掘りしてきました。
ぜひ、ごゆっくりお楽しみください。
Index
1. 広く、そして繋がり合うカルチャーの世界に憧れて
2. 職人世界の○×△
3. 「カッコよさ」は、奥深い
5. 職人 コバヤシアキヒト の色
職人 コバヤシアキヒトの制作美学

1. 広く、そして繋がり合うカルチャーの世界に憧れて
– コバヤシさんが染色職人になったきっかけを教えてください。
きっかけはyuhakuを紹介していただいたことです。 元々は古着屋のスタッフとして働いていたのですが、作り手に従事してみたいと思っていたんです。そのことを知人に話したところ、yuhakuの代表である仲垣社⻑を紹介してもらいました。自分でもyuhakuを調べてみて、面談でお話しするにつれて面白そうだなと思ったタイミングで採用していただけました。
– 元々はアパレル業界にいらっしゃったんですね
デザイナーに憧れていたのですが、当時はなぜか新卒で素直に就職することがかっこ悪いと思っていたんです笑 自分で経験を積んで人脈を築いた結果としてデザイナーになれることがかっこいいんじゃないかと思っていて。なので、服飾系の学校を卒業して古着屋で働いていました。でも、思ったよりも自分に行動力がなかったんですよね。働いていた古着屋では自分の手がけたリメイクを置いてもらっていて、そこでちょっとした制作の満足感を得ていたというのもあります。

(手がけたリメイク作品)
– デザイナーに憧れを持ったきっかけはありますか?
高校生くらいから音楽を入り口にサブカルチャーに傾倒していったのですが、音楽に触れるにつれて、ミュージシャンやロックンロールスターのルックス面からファッションにも興味を持つようになりました。当時はまだ知らないことだらけだったので、音楽やファッションについて知るにつれて自分の世界が広がっていく感覚が楽しくて、どんどんのめり込んでいきました。
そうやって追いかけていくにつれてデザイナーやモノ作りに憧れを持つようになりました。 日常的なファッションだけでなくモード雑誌を読むことも好きだったので、作り手に対する漠然とした憧れがあったんです。また、好きなミュージシャンの服を有名なデザイナーが手がけていたりして、モノ作りがクロスオーバーしている様子を知る中で、「かっこいいな、面白いなこの人たち」と思う憧れも増していきました。
2. 職人世界の○×△
– 実際に染色職人としてモノ作りの職に携わってみていかかがでしたか?
これまでレザーに触れたことがなくて、ましてやその染色という専門的なお仕事だったので、今までとは全く別物の世界だと感じました。手がける工程も想像以上に多く、とても細やかな仕事です。古着のリメイクは採寸せずに感覚で手がけることもありますが、革小物の縫製となるとミリ単位のお仕事です。また、染色現場では全員で基準を合わせて製品のクオリティを担保するので、最初は慣れるのに時間がかかりました。「色」という曖昧なものを取り扱うためには感覚と経験が重要になるので、マニュアルだけで全ての下地を揃えることもできません。なので、思った以上に言葉でのやりとりやコミュニケーションが大事だなと感じました。
– 想像以上にさまざまな学びがあったんですね
職人やデザイナーに対して漠然とした憧れだけで入ってきたので、仕事内容についてあんまり具体的に考えていなかったんですよね。笑
それゆえに量産の現場での大変さもたくさん味わいました。効率重視の仕事が得意な方もいますが、正直自分は苦手だなと感じますし、そういう意味では自分は職人に向いていないかなと思うこともあります。でも作る仕事自体は性分に合っていますし、職人と一口に言っても活かせる特性は一つではなく、いろんな活躍、貢献の仕方があることも知りました。それもとても大きな学びだったと思います。
– 普段の染色作業ではどのような点にこだわってお仕事されていますか?
自分の中でのテーマは「クオリテイと生産性のせめぎ合い」ですね。
通常、量産では時間を意識しながら一定のクオリティで10枚、100枚と作っていくため1枚にかけられる時間も限りがあります。自分は、量産品であっても1枚1枚が作品としての魅力を持っていて欲しいと思っているので、そうしたクオリティの追求を決められた時間の中で達成していくことが目標でありこだわりです。
– モノづくりの現場ならではのさまざまなせめぎ合いと学び、興味深いです
そういえば、現場で学んだ工夫としては「1度置いておく」というのもあります。判断する時に○と×だけでなく、△を用意しておくというものなのですが、これは作業をする上で結構大事だなと学びました。実際、ひたすら20枚、50枚、100枚という単位で染めていると、完成間近なのにあと少しがうまくいかなくて時間を取られることが多々あります。そういう時に「1回置いておく」用のボックスに入れておくんです。99枚を染めた後に、その1枚に戻ってくると意外とすんなりいくんですよね。やり続けるだけではよくないタイミングもあるのだなと学びました。時間が許す限り置いてみるとか一休みするというのは、職人仕事だけでなくいろんな場面で使えるなと思います。

(1日に100枚以上を染めることも)
– 確かに行き詰まったら気分転換する、というのも大事ですよね
染色作業ってかなり神経を使う仕事なので、量産していく中で目が疲れると色ブレなんかの判断が曖昧になることもあります。笑
でも、一旦休憩を挟んで目を休めると見えるようになってたり。
長丁場の作業では自分を過信せず、作業を俯瞰で振り返るタイミングを設けることも大事ですね。
3. 「カッコよさ」は、奥深い
– 色と密接なお仕事ですが、好きな色はありますか?
そんなに深く考えなくてもいいのかもしれないですけど、黑ひとつとっても、その中にいろいろなトーンがあって、トーンごとに好き・嫌いがあります。そうした感覚が他の全ての色にもある気がしているので、 そういった意味で考えると「好きな色」って特にないんですよね。
– そうした色の感覚が制作に影響しているなと感じることはありますか?
1色や単調にパキッとした色よりは、さまざまな色を混ぜて色作りをするのが好きです。ARTOCU立ち上げの際、クラウドファウンディングのリターンで「サファイア」という色を制作しました。その際も、複数の色を入れて製作したのですが、特定の好きな色がないというのが曖昧な色作りに繋がっているのかもしれません。
– 制作のインスピレーションはどこから得ていますか?
アートが好きなので、かっこいい作品に出会うと色や構図など染色に引用できないかと試すことはすごくやっています。 最近は抽象画だとゲルハルトリヒターのアブストラクトペインティングが好きです。若い人にも人気があるのですが、アートが全然分からなくてもなんだか惹かれるところが彼のすごいところだなあと思います。また、見た目のかっこよさだけでなく、その作品に込められた意味やメッセージなど、内面的な部分から影響を受けることも多いですね。
– ご自身の制作物には何か意図など込めることはありますか?
ARTOCUに関して言えばアート要素もありますがやはりプロダクトだと考えているので、ファッションとしてかっこいいものを意識して作ることが多いです。特に自分はモードなスタイルにギャップやユーモアとして配置される色や小物に魅力を感じるので、制作する小物もそんなふうにコーディネートのアクセントとして合わせていただけるといいなと密かに思ったりします。
– コバヤシさんにとって「色」とはどのような存在ですか?
「ツール」です。ファッション的な視点が強いかもしれませんが色というのはイメージを作ることに活用するものだと考えていて。フォーマルを意識すれば白黒を選ぶし、かっこよく見せたかったら暗い色、華やかさは明るい色やペールトーン。そういう風にイメージ作りにおいて色というのは重要な役割を担っています。
また、画家のマーク・ロスコの作品を鑑賞していると、1色で塗られたキャンバスを見ているうちにイメージを引き出されることがあります。
そうした経験の結果、「表現する時のツールの1つ」というのが色に対してしっくりくる感覚だなと思います。
– 今後ARTOCUをどんな場にしていきたいですか。
自分達にとってもお客様にとっても面白い場にしたいと考えています。今、メインブランドであるyuhakuではさまざまなコラボが増えていますが、ゆくゆくはARTOCUも社内外でのコラボが生まれると面白いなと考えています。そうした成長を続けることで他にはない企画や商品を展開していき、お客様にとって魅力的な場であり続けられるといいなと思います。
4. コバヤシアキヒト の色

ルリビタキ
ヒタキ科の鳥たちの丸っこく愛らしいフォルムに惹かれ、今回はその中でもルリビタキをテーマに色を作りました。
春~夏にかけて山林に姿を見せるルリビタキをイメージし、彼らが持つ美しい青やオレンジが森の新緑や川に溶け込んでいくような透明感のある色合いで仕上げました。森の中を自由に飛び回る彼らの姿を感じてもらえたら嬉しいです。
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