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2019.11.01
こだわり
yuhakuのルーツでもある手染めの革靴
革靴をキャンバスに見立て絵画のように色を重ねる
今でこそ革小物のイメージが強い「yuhaku」だがブランドのルーツは革靴にある。「yuhaku」を牽引する仲垣氏は無類の靴好きで、一時は100足以上もコレクションしていたほど。イタリア人の靴職人の教えを請い、自分でもオールハンドで1足靴がつくれるほどの技術を習得しているとか。それだけに「yuhaku」にとって革靴は特別な存在なのだ。今回は実際にヌメ革で作った靴に色を入れ、染料を重ねることで深みを増していく「yuhaku」の手染めの醍醐味をレポートしたい。
ベースとなる革靴はイタリアのカーフを使って素上げしてもらったもの。モデルによってグッドイヤーウェルトとマッケイの2タイプの製靴方法がとられるが、今回染めるブローグシューズはグッドイヤーウェルトでつくられたものだ。染料はブルーを基本にグレー、茶色、黄色など数種類を使って手染めしていく。
最初は靴全体をブルー(空色)に染めていく。この時に完全に乾いてしまう前にバフを掛けるのがポイント。染料が完全に乾いてから磨いても思うような光沢が出ず、革も堅くなってしまう。それ故に1足ずつ染めていく必要があり、大量生産はできないのだ。とにかく手早く的確にタイミングを見ながらバフを掛け、手染めを繰り返していく。まさに革との対話を繰り返していくような作業で、すべて職人の感覚によるところが大きい。これも長い経験の中で試行錯誤しながら見つけ出してきた「yuhaku」だけの技術だ。
ヌメ革の時には分かりにくかった肌の細かな状態も下地の空色を塗ると見つけやすくなる。この段階でスリッカーと呼ばれる工具で凹みキズなどをしっかりとならして綺麗にしておく。こうしておくことで仕上がりに差が出てくるのだ。
下地の段階から完成を予想してグラデーションをつけていく。タンの部分も細めのハケを使って手染めし、丹念にバフを掛けていく。
下地の手染めが終わると、次は靴の外周を黒い色に手染めしていく工程だ。ハケだけではなく布も効果的に使い、下地との境界線をボカしていく。
通常、革靴をグラデーションにする場合はトゥとヒールをダークトーンにするのがセオリー。だが「yuhaku」では逆に靴の中央部分に暗い色を持ってくる。
革の切り換えの部分やコバにもハケを使って手染めしていく。
左がハケを使う前のもので右が細部まで手染めしたもの。ちょっとしたことだが見た目がかなり変わってくることが分かるはずだ。
次に使うのは黄色の染料。靴の上で下地の青と混ぜることでグリーンのような色へと変化していくため、それほど黄色が強調されることはない。
黄色をはじめとした明るい色は、靴に光が射し込むイメージで染めていくのだとか。まさしく靴をキャンバスに見立て、油絵のような感覚で色を重ねて完成へと近づけていく。アーティスティックな感性をもつ「yuhaku」の職人たちの腕の見せ所だ。
今回の手染めの中でも一際スピーディーさが要求されるのがブラウンの染料を使う工程。茶系の染料は他の色を打ち消してしまいやすいので、それを防ぐために素早く手染めして、バフを掛けていく。
向かって右がブラウンを手染めしてバフを掛けたもの。より深みが出たのがお分かりいただけるだろうか。
アッパー部分の仕上げに筆を使ってき履き口などのコバも仕上げていく。この時、ブラックではなくグレーの染料を使うのがポイント。黒だとコントラストがきつく出過ぎるため、敢えてグレーを使っているのだという。右が仕上げ前、左が仕上げ後になる。
革靴好きの方ならご理解いただけると思うが、良い革靴は底までしっかりと仕上げられているもの。「yuhaku」はアウトソールにも手染めで色を入れていく。中央の膨らみを中心として、ゆるやかにグラデーションがかかったこの靴底はまるでバイオリンのような風情。この立体感を演出するため、シャンクの他に形成した革を入れ、敢えて靴底の中央が盛り上がるように設計しているという。無類の靴好きである仲垣氏ならではの造型美だ。
今回手染めしたのはブルーグリーンというカラー。ベースの革の色が経年変化で黄色くなっていくため、履いているうちにさらにグリーンが強くなっていく。「yuhaku」の職人たちは染め上がりのイメージを持つだけでなく、完成してから経年変化をすることまで考慮して手染めを施していく。染料や革の特性をよく理解しているからこそできる仕事なのだ。
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